医療職は肉体労働です。特に看護師や看護助手、医療事務に至るまで、足や腰の病気を患い退職を余儀なくされる方も大勢います。特に足の付け根の病気の場合主に股関節が原因の事が多くあり、ひどい場合歩行障害といった症状が現れることがあります。
今回はそういった仕事を続けられないまで悪化しないように首や腰の疾患について医師監修のもと解説致します。第2回は「足の付け根(股関節)の痛み」です。
足の付け根にある股関節には多くの筋肉や靱帯(じんたい)が付着しており、ケガをしたケース以外にもさまざまな障害を引き起こす可能性があります。
こちらの記事では股関節のまわりに多く見られる疾患や原因、治療方法などについて解説します。
目次
足の付け根とはどの部分?
足の付け根といった場合、鼠径部(そけいぶ)を指すことが一般的です。左右の足の付け根には斜めにくぼんだ溝のような箇所がありますが、その内側を鼠径部と呼んでいます。
しかし、医療機関などに「足の付け根が痛い」と訴えて来院する方を見ていると、股関節の周囲を指しているケースも多いため、本稿でも股関節周囲のことを足の付け根として話を進めていきます。
足の付け根が痛むとどうなる?
足の付け根にある股関節が痛むと、次のような症状を引き起こしやすくなります。
- お尻や太ももが痛くなる
- 歩くのに支障が出る
- 立ち上がるのがつらい
- 胡坐や靴下をはくのが困難
- 歩くときに左右に揺れる
股関節は上半身と下半身を結んでおり、地面からの衝撃を吸収するクッションのような役目があるため、痛みのために股関節の機能が低下すると、腰痛だけでなくお尻や太ももの痛みが出やすくなります。
また股関節が痛いと歩いたり立ったりするのに支障が出たり、胡坐(あぐら)や靴下を履くことが困難になったりするだけでなく、場合によっては歩くときに上半身が左右に揺れることもあります。
足の付け根は片側だけ痛むことも?
足の付け根にある鼠径部や股関節は左右同時に痛むこともあれば、どちらか一方だけが痛むこともあります。左右のいずれかだけが痛む場合、以下のような原因が考えられます。
- 骨盤のゆがみ
- 先天的な股関節の変形や異常
- 過去に負ったケガの後遺症
- 偏った身体の使い方など
足の付け根の痛みで考えられる疾患とは?
足の付け根に痛みがある場合、以下のような疾患の可能性が疑われます。
- 変形性股関節症
- 関節リウマチ
- 骨頭壊死
ここでは、足の付け根に痛みがある場合に疑われる3つの疾患について解説します。
変形性股関節症
変形性股関節症は何らかの原因によって股関節まわりの軟骨がすり減り、痛みを引き起こす変形性関節症の一種です。変形性股関節症は前期、初期、進行期、末期に分けられ、主に以下のような特徴があります。
前期
変形性股関節症の前期には形成不全などの所見こそ見られるものの、関節軟骨のすり減りは見られず、股関節と骨盤との隙間は正常に保たれています。自覚症状もないケースが多くなっています。
初期
変形性股関節症の初期になると関節軟骨が徐々にすり減り始め、股関節と骨盤との隙間が次第に狭くなってきます。軽度の痛みや歩き始めの違和感を感じることがあります。
進行期
変形性股関節症が進行期に入ると、関節軟骨が虫に食われた跡のようにすり減り、股関節と骨盤との隙間もさらに狭くなります。進行期には靴下を履いたり爪を切ったりする動作が困難になるなど、日常生活にも支障を来し始めます。
末期
変形性股関節症の症状が末期に至ると、関節軟骨がほとんど消失して股関節と骨盤が直接ぶつかるようになります。末期には股関節を動かしたときだけでなく、安静時や夜間にも痛みが生じ、著しく生活の質を低下させます。
関節リウマチ
関節リウマチは自己免疫疾患の一種で、何らかの原因によって身体を守るべき免疫系によって関節が攻撃され、炎症を引き起こす点が特徴です。
症状は指など小さな関節から始まりますが、悪化するにつれて足関節(足首)や膝関節、股関節などの大きな関節にも症状を引き起こします。
関節リウマチの症状は両側性に見られることも特徴の1つです。中高年以降の女性に多く見られる疾患ですが、現在のところ発症原因やメカニズムについては明確なことが判明していません。
骨頭壊死
骨頭壊死は何らかの原因によって骨に十分な血液が流れなくなり、骨の細胞が死に衰えていく病気です。太ももに多く見られることから、単に骨頭壊死といった場合、大腿骨頭壊死を指すことが一般的です。
中でも特発性大腿骨頭壊死は国の難病に指定されており、原因はいまだに不明となっています。ただし、特発性大腿骨頭壊死を発症した場合でも、適切な手術により痛みのない生活を送ることが期待できるため、過度に心配する必要はありません。
足の付け根の痛みの治療方法とは?
足の付け根に痛みが出るのは上記の疾患だけが原因とは限りません。股関節周囲の筋緊張によって痛みが引き起こされるケースも少なくありません。
慢性的な股関節の痛みが見られる際には、日常的に運動やストレッチに取り組み、改善が見られない場合には医療機関を受診することがおすすめです。
股関節の痛みを和らげる運動やストレッチ方法
股関節が急に痛くなった場合は別ですが、なんとなく痛い場合や違和感がある場合には、運動やストレッチで解消できるか試してみることがおすすめです。
ストレッチ
特に思い当たる原因もないのに慢性的な股関節の痛みや違和感がある場合、股関節まわりの筋肉が硬くなって骨を引っ張り、症状を引き起こしている可能性も疑われます。
そのため、日常的にストレッチをおこない、股関節にかかる負担を軽減することがおすすめです。特に太ももの前側(大腿四頭筋)や裏側(ハムストリングス)、腹部のインナーマッスルである大腰筋などをストレッチで緩めるとよいでしょう。
適度な運動をする
股関節を動かした際に激しい痛みを生じる場合は別ですが、慢性的な痛みや違和感がある場合には、股関節をある程度は動かす必要があります。
痛みや違和感があるからと言って安静にしすぎると、股関節周囲の筋力が低下して、かえって症状を悪化させる恐れがあります。
股関節の痛みや違和感がある場合には、プールでのウォーキングがおすすめです。水の中では浮力がはたらくため、関節に負担を掛けずに筋力アップを図ることが期待できます
病院での治療方法
ストレッチや運動で股関節の痛みや違和感が解消しない場合は、医療機関を受診して原因を突き止め、適切な治療を受けることが必要です。病院では主に以下のような治療を行い、股関節の痛みや違和感の改善を図ります。
- リハビリ・運動療法
- ヒアルロン酸注射
- 手術
股関節の痛みや違和感がある場合の、病院での治療法について解説します。
リハビリ・運動療法
股関節の痛みや違和感が運動不足によって生じている場合、理学療法士の指導下でリハビリをおこない、筋力アップや身体の機能向上を図ります。
体重の急激な増加によって股関節への負担を増している場合には、管理栄養士などの指導を受けて食事療法に取り組み、体重を減らすことも必要です。
ヒアルロン酸注射
股関節の痛みが強い場合には、ヒアルロン酸注射をおこなうケースもあります。通常はヒアルロン酸注射と鎮痛薬を同時に投与し、痛みを和らげることが一般的です。
手術
上記の治療で改善が見られない場合や、日常生活に多大な支障を来すような場合には、手術療法が検討されることもあります。手術法としては「内反骨切り術」「外板骨切り術」「人工股関節置換術」などがあげられます。
まとめ
足の付け根が痛い場合は変形性股関節症や関節リウマチ、骨頭壊死などの疾患が疑われるため、なるべく早めに医療機関を受診し、原因を突き止めることが重要です。
上記の疾患以外に、股関節まわりの筋緊張が足の付け根に痛みを生じる可能性もあるため、日常的にストレッチや運動に取り組み、股関節や筋肉を柔軟に保ちましょう。